前回の記事「今後は所有の時代が再びやってくる――少しずつ準備する『分散所有』」では、分散所有という考え方と、その全体像について書きました。
今回は、その中の一つである「自分のビジネスを持つこと」について、最も初歩的な考え方をまとめます。
「どこに勤めているか」ではなく、「何の仕事をしているか」
昔、何かの本で、こんな話を読んだことがあります。
外国人から「何の仕事をしていますか?」と聞かれた日本人が、「〇〇会社に勤めています」と答えた。
すると相手から、
「違う違う。どこに勤めているかではなく、何の仕事をしているの?」
と聞き返された、という話です。
本当に日本人と海外の人との間に、ここまで明確な違いがあるのかは分かりません。
ただ、この話には、日本人の仕事観をよく表している部分があるように思います。
「自分は何の仕事をしている人なのか」が先にあり、その仕事からお金を得る方法の一つとして、会社員という働き方がある。
本来は、そういう順番なのかもしれません。
そう考えると、自分で何らかのビジネスを持つことも、それほど特別な話ではなくなります。
では、なぜ多くの人は、自分のビジネスを持たないのでしょうか。
理由は単純です。
これまでの人生で、ほとんど経験したことがないからです。
つまり、やったことがない。
ビジネスは、自転車に乗ることと似ている
自転車に一度も乗ったことがない人が、いきなり上手に乗れないのは当たり前です。
最初はバランスを崩します。転びます。うまく前に進めません。
それでも何度もペダルをこいでいるうちに、少しずつ乗れるようになります。
自分のビジネスを作ることも、これに近いと私は感じています。
最初からうまくいく人は、ほとんどいません。
何を売ればいいのか分からない。
価格の付け方も分からない。
商品を作っても売れない。
宣伝しても反応がない。
それでも、小さく試して、失敗して、少し修正する。
その繰り返しによって、徐々に「ビジネスの乗り方」が分かってきます。
ところが、多くの人は、転ぶこと自体を失敗だと考えます。
一度転んだら終わり。
そう思っているから、最初の一歩が踏み出せません。
あるいは、もっと危険なことに、一度転んだだけで本当に立ち上がれなくなるような始め方をしてしまいます。
一度転んだら終わる状態で始めない
脱サラや起業をした人が失敗し、そのまま立ち直れなくなることがあります。
もちろん、能力がなかったからとは限りません。
多くの場合、「一回転んだら終わる状態」でスタートしているのです。
たとえば、長年の夢だった飲食店を始めるために、会社を辞め、多額の借金をし、いきなり店舗を借りる。
家賃や人件費、仕入れ代など、毎月大きな固定費が発生する状態からスタートします。
これでは、練習中に転ぶことが許されません。
以前、近所に外装のおしゃれな居酒屋ができたことがありました。
外装も内装もきれいで、料理は薄味で上品。洗練された雰囲気のお店でした。
話を聞くと、店主は長年の夢をかなえるため、サラリーマンを退職して店をオープンしたそうです。
ところが、半年ほどたつと、少しずつ店が変わり始めました。
最初は、壁におすすめメニューの紙が増えました。
その後、料理の品数が増え、フライドポテトなどの手軽なメニューも目立つようになりました。
私はその頃から行かなくなってしまいましたが、外から店内を見るたびに、壁に貼られたメニューが増えていきました。
最初にあった店のコンセプトは、徐々に見えなくなっていました。
おそらく、売上を作るために、できることを必死に試していたのだと思います。
しかし、それから数か月後、その店は閉店しました。
このように、一度の失敗で挽回できなくなる状態を作ってはいけません。
大切なのは、絶対に失敗しないことではありません。
失敗しても、もう一度試せる状態を残しておくことです。
スーパーマリオをやるイメージ
私は、ビジネスについて考えるとき、よくスーパーマリオを思い浮かべます。
なぜ、ほとんどの人が少しずつ先のステージへ進めるようになるのでしょうか。
それは、あのゲームが「死ぬこと」を前提に設計されているからです。
最初は、穴に落ちます。
敵にぶつかります。
タイミングを間違えます。
それでも、何度も同じステージに挑戦しているうちに、落とし穴の位置や敵の動きが分かってきます。
気がつけば、以前は難しかった場所を、当たり前のように通過できるようになります。
多くのゲームは、失敗すること自体が、上達の仕組みに組み込まれています。
ビジネスも、このような考え方で始めるべきです。
つまり、失敗を計画に組み込むのです。
一つの商品が売れなくても、生活が破綻しない。
一つのサービスを閉じても、もう一度別のものを作れる。
広告費を使って反応がなくても、経験として次に生かせる。
そうした状態で、小さな挑戦を繰り返します。
失敗しない計画を作るのではありません。
失敗しても続けられる計画を作るのです。
天才を参考にしない
もちろん、世の中には天才がいます。
初めてなのに、すぐサッカーができる人。
初見のゲームでも、かなり先まで進める人。
初めて作った商品が、いきなり大ヒットする人。
彼らは特別なスターです。
しかし、私たちは、そうした人を参考にする必要はありません。
天才と同じやり方をしなくても、ゲームは少しずつ上達できます。
何度も挑戦し、失敗するたびに学んでいけば、普通の人でも次のステージには進めます。
むしろ、天才の大きな成功だけをまねしようとする方が危険です。
いきなり会社を辞める。
いきなり大きな借金をする。
いきなり店舗を構える。
いきなり大量の商品を仕入れる。
それは、うまくいけば格好いいかもしれません。
しかし、普通の人がビジネスを身につける方法としては、リスクが高すぎます。
まとめ
今回は、自分のビジネスを持つための、最も基本的な考え方について書きました。
まず、自分のビジネスを持とうと考えること。
多くの人が二の足を踏むのは、才能がないからではありません。
ただ、これまでやったことがないからです。
そして、始めるときには、失敗を前提に計画すること。
一度転んだら終わるような始め方をしてはいけません。
何度でも試せるサイズで始める。
小さく失敗する。
少し直して、もう一度やる。
自分のビジネスを持つことは、一度の大勝負ではありません。
何度も転びながら、少しずつ乗れるようになるものです。

