AIが普及すれば、誰もが高度な知識や技術を使えるようになる。そうなれば、社会の格差も小さくなる。そんな期待があります。
しかし、私は別の可能性もあると考えています。
AIは能力の格差を縮めながら、立場の格差を広げる可能性がある。
できることが増えても、そこから得られるお金や自由まで、同じように増えるとは限らないからです。
同じAIを使っても、得られるものは違う
例えば、AIによって、若手でも経験者に近い品質の提案書を作れるようになったとします。ここでは、仕事の出来栄えの差が縮まっています。実際、カスタマーサポートを調べた研究でも、AI支援による生産性の改善は、経験の浅い担当者に特に大きく現れました。
では、仮に提案書の作成時間が4時間から1時間になったら、何が起きるでしょうか。
固定給の社員なら、給料は変わらず、空いた時間に別の仕事が増えるかもしれません。一方、顧客と直接契約する事業主が同じ料金を維持できるなら、空いた時間を追加の仕事に使うか、休むかを自分で決めやすくなります。
同じだけ効率化しても、その成果を誰が受け取り、使い道を誰が決めるかによって、豊かさは変わるのです。
能力が広まるほど、残る差が重要になる
ここでいう「立場」とは、顧客との関係、資産の所有、契約条件、交渉力、時間を使う裁量などです。
優れた商品を作る能力が広く手に入るようになっても、その商品を届ける顧客との関係まで配られるわけではありません。すでに顧客を持つ会社がAIで弱点を補えば、技術力で追いつこうとしていた新規参入者は、かえって追いつきにくくなる場合があります。
AIによって能力の差が縮むほど、こうした差が結果を左右する可能性があります。
能力が広まることと、利益を受け取る機会が広まることは、別なのです。
能力を磨くことに加えて、立場をつくる
もちろん、結果が最初から決まっているわけではありません。社員でも、成果に応じた昇給や労働時間の短縮によって恩恵を受けられます。事業主でも、値下げ競争が激しければ、効率化の利益は手元に残りません。
だからこそ、AIの使い方を学ぶと同時に、自分が生み出した価値の一部を受け取れる環境を選ぶことが大切になります。
顧客と直接つながる。改善の成果が評価される職場を選ぶ。報酬だけでなく、時間の裁量についても話し合う。立場は、こうした小さな積み重ねでも変えていけます。
AIでできることを増やす。その上で、増えた価値が自分の収入や自由にもつながる仕組みをつくる。
AI時代を豊かに生きるには、この二つを一緒に考える必要があると思います。
