本書の要諦
- ダンドー流の投資とは、低リスク・ハイリターンを目指す投資法である。(コインが表なら大勝ち、裏でも損失は小さい)
- 稀に発生する低リスク・ハイリターンのチャンスに賭けること(厳選した小数に、たまに、大きく賭ける)。
- 銘柄の選定には、ダンドーのバリュー株投資9つのフレームワークを理解し活用する。
ダンドーのバリュー投資とは
ダンドー(Dhandho)とは、元々はクジャラート州出身のインド人が使う言葉。直訳は「富を創造する努力と挑戦」。
ダンドーのバリュー投資は、「小さなリスクで、大きなリターンを得ようする努力と挑戦」とも言い換えられる。
発想は、ベンジャミン・グレアムやバフェットのバリュー投資の考えと似ている。
この本では、クジャラート州のインド人の姓に「パテル」というのがあって、この「パテル」さん達が1970年代にアメリカに移住し、無一文から今やアメリカのモーテルの半数を保有しているという驚くべき例から、ダンドー投資の強さと真髄を説明している。
アメリカのモーテルを支配する謎の「パテル」さん
インドのグジャラート州出身のマイノリティであるパテルは、1970年代に地政学的な問題から、少しの資金を持ってアメリカに移住し始めた。
彼らは現在、全米で400億ドルのモーテル資産を保有し、年間7億ドル以上の税金を納め、約100万人の雇用を創出している。
彼らは、ダンドー投資として、「モーテル経営」を選んだ。
当時モーテルはアメリカの不景気や仕事を継ぐ経営者の不在から非常に安く売り出されており、パテルは銀行の融資を利用してモーテルを購入し、経営をスタートさせた。
モーテル経営では、自分と家族が労働力として働くことができ、さらにモーテルに住み込むことで家賃も浮かせることができた。
他のモーテル経営者は従業員を雇うから人件費がかかるのに、パテルは自分達で働くから人件費のコストがかからない。非常に強い参入障壁を持てた。
モーテル経営は、パテルさん達にとって低リスク・ハイリターンのダンドー投資だった。
本書の著者モニッシュ・パブライは何者?
本書を執筆したモニッシュ・パブライは以下のような人物
- インド人で、元起業家で現在はパブライファンドというファンドを運営している。企業を売却した資金でファンドを立ち上げたそう。ファンドはバフェットがかつて運営していた伝説のファンド「バフェットパートナーシップ」を大いに参考にしている。
- バフェット大好き。バフェットとのランチ権を購入して一時話題の人物になった。
つまり、生粋のバリュー投資家だ。
ダンドーのバリュー投資とは、バフェットやグレアムのバリュー投資に影響を受けている。というか、ほぼそのままだ。
ただし、ダンドーのバリュー投資では「9つのフレームワーク」を設定しており、バフェットやグレアムの投資より的を絞って具体的だ。
この「9つのルール」株式投資以外にも比較的直感的に当てはめることができ、ビジネスにも応用が効くように思った。
9つのダンドーフレームワーク
ダンドーのバリュー株投資の9つのフレームワークは以下の通り。
- 既存ビジネスの購入に絞る
- 変化が大変緩やかな業界のシンプルなビジネスを購入する
- 行き詰った業界の、行き詰ったビジネスを購入する
- 競争上の優位性を保てるビジネスを購入する(堀)
- オッズが圧倒的に有利なときには大きく賭ける
- 裁定取引に注目する
- 潜在的な本質価値よりも大幅に割り引かれた価格でビジネスを購入する
- 低リスクで不確実性の高いビジネスを探す
- 革新者になるよりも成功者に倣う
既存ビジネスの購入に絞る
新しい革新的なサービスではなく、古くからあって人から必要とされている既存ビジネスに絞ること。
例)モーテル(ホテルビジネスは古くから存在し、ニーズは消えない。)
変化が大変緩やかな業界のシンプルなビジネスを購入する
ダンドー投資では変化は嫌われる。昔からあって、ずっとそのままの旧態依然のビジネスを狙う。
例)銀行業界、マスコミ・新聞業界など。
行き詰った業界の、行き詰ったビジネスを購入する
行き詰まった業界は、本来持つポテンシャルより低い評価を受けている可能性が高い。安く手に入れ、問題解決をすれば評価が上がる。
例)鉄鋼業界
競争上の優位性を保てるビジネスを購入する
いわゆる参入障壁が大きなビジネスに投資する。例えば銀行だったら銀行の免許や大きな資本金が必要。
オッズがあなたにとって圧倒的に有利なときには大きく賭ける
常に投資するのではなく、自分にとって圧倒的に有利なタイミング、チャンスに大きく賭ける。
例)パテトさんのモーテル・ホテル経営、バフェットのワシントンポストへの投資・アメックスへの投資
裁定取引に注目する
強力なツール。裁定取引は理論上では負けない。
裁定取引を血眼になって探すべし。
潜在的な本質価値よりも大幅に割り引かれた価格でビジネスを購入する
安全域が大きなビジネスを狙って購入する。
株でいえばPBRが1を割っていれば、解散価値の方が株の価値より高いというわけで、そういったビジネスを購入する。
低リスクで不確実性の高いビジネスを探す
ビジネスのリスクは低いけど、不確実性が高いビジネスは割安に購入できるチャンスがある。
市場は不確実性を嫌うので、大きな不安を持ったときに割安で手に入れやすい。
例)パテトさん達のモーテル経営(当時はモーテル経営はどうなるかわからなかった。)。スチュアートエンタープライズ(大手の葬儀業界。葬儀業界は低リスクビジネスであったが、当時葬儀業界は債務を返せるか株式市場は懐疑的になっていた。)
革新者になるよりも成功者に倣う
新しい市場を開拓しようとするベンチャー企業より、すでに成功している企業のビジネスをマネる企業の方が良い。
*これは自分でビジネスをやる場合にも有用なアドバイスに思われる。
例)マイクロソフト(マイクロソフトは、色んなサービスを模倣して成功させるのが天才的にうまいらしい)
雑感
「ダンドー」と言う言葉は本書を読むまで聞いたことがなかったが、バリュー投資のことだとわかって、しっくりきた。
ダンドー投資は、時代時代に発生する低リスク・ハイリターンの投資チャンスを発見し、大きく賭ける手法で、バリュー投資の「安全域」を非常に重きを置いた投資手法。
「9つのフレームワーク」は、このフレームワークに沿えば、適切な投資先を見つけることができるので、具体的でわかりやすい指針だと思った。
投資の世界に入ると「フリーランチは存在しない」と言う原則を嫌と言うほど教わるが、一瞬なら「ローリスク・ハイリターン」「ノーリスク・ハイリターン」は存在し、その一瞬を捉える努力こそが大事なのだ。
ダンドー投資はその証明であり、知っておいて損はない考え方だと思った。
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