知識の税金

オリジナル小説
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金持ちだが、極度の見栄っ張りで傲慢な男がいた。

男は、詐欺的な商売で財を成した。だが、そのグレーな商売と、見栄による虚勢が原因で、とうとう母国を追放されてしまった。

男は、新たな住処を求めた。すると、ある国が移住先の候補に上がった。

その国は、高い知識水準を誇り、独自の税制を採用していると噂されていた。だが男はその傲慢さから、詳しく調べもせずにさっさと移住を決めた。

移住先に引っ越すと、まずは役所で手続きをした。

一通りの書類の手続きを終えると、役人は、「それでは、あなたの知識を計測させていただきますね」と言った。

役人が提示した書類には、簡単なクイズから非常に難しい問題まで並んでいた。

男は、意味がわからぬまま書類を読む。最初の問題は解けたが、後半はほぼ知らない問題ばかりだった。しかし、見栄っ張りな性格が響いて、男は「わからないものは数問ほどですな」と言った。

それを聞いた役人は驚愕した。

「それは本当ですか…。あなたは偉大な賢人ですね…。しかし知識税は相当かかりますよ。」

男は、自分が賢いと褒められ、有頂天になった。しかし、知識税という言葉も引っかかった。

「まぁ、当然ですな…。しかし、知識税とはいったい何ですか?私の国には存在しない税だ。」

役人は、「知識税」について説明した。

「知識税」とは、知識や知能に対してかかる税金であり、この国では頭脳も知識も立派な資産とみなされ、課税対象となるというのだ。

男は初めて聞く税制に驚きつつも、それでも見栄から「私には簡単でしたね」と強がった。

「それで、納税額はいかほどですかな?」男は役人に尋ねた。金なら、悪徳商売で稼いだので、たんまり持っている。

ところが、役人が計算した知識税は、男の資産の半分にも達する莫大な額だった。

これには流石に男も唖然とした。

知識とは、そんなに価値として高いものなのか…。

男は、本当のことを自己申告するべきか悩んだが、プライドが邪魔をして後には引けなかった。

結局、またビジネスで稼げば良いと思い、資産の大半を支払うことになった。

************

移住後の生活は快適だった。

国民の知識水準は非常に高く、文学や教育は格安か無料で提供されている。

安全で、清潔で、医療も充実している。男の理想の暮らしがそこにあった。

しかし、男がビジネスを始めると、この国は男にとって一変して地獄と化した。

国民が賢いので、男が今までやってきた人を騙すような商売は、ことごとく見破られてしまうのだ。驚いたことに、一人一人が法律的な知識も充実しており、違法な商売をすると、すぐに訴えられてしまう。

売り上げも立たず、さらには訴訟費用もあって、男の資産はすぐに底をつき、さらには借金まで背負う羽目になった。

精神的にも追い詰められ、男は、入国時に見栄を張って、知識税として大金を失ったことを深く後悔した。

************

もはや、自分の人生を自分の手で終わらせようかとさえ思い詰めていた矢先、玄関のチャイムが鳴った。

ドアを開けると、この前の役人が立っていた。

「以前、あなたから受け取った知識税は、取り過ぎだったと判明しました。ですから、取りすぎた税金を返金いたします。」

男は事態が飲み込めず、役人に詳しく話を聞く。

役人によれば、移民審査の時は自己申告に基づいた仮の納税額であり、その後、個別に正確な知識レベルを調査するのだという。

男は調査の結果、ほとんど知識がないにも関わらず過大申告していたことが判明し、過払い金が返金されることになったのだ。

役人はさらに、男の本来の知識レベルに応じた、適正な知識税額を提示した。それは、以前支払った額とは比較にならないほど少額だった。

「知識税をこれだけ過大に支払った人は、あなたが初めてですよ。普通は、過小評価して申請するんです。だから後日、我々が正確な調査をしているのですが。」

男は、自身の愚かさを痛感した。見栄を張り、嘘をついたことで、無駄な苦労を背負い込んでしまったのだ。返金されたお金を手に、男は心から悔い改めた。

それから男は、人が変わったように勉強に励むようになった。

まずは、今まで目を背けてきた基礎的な知識を身につけることから始めた。

図書館に通い、無料の講座にも積極的に参加した。知識が増えるにつれ、男は学ぶことの楽しさを知った。

そして、自分の知識を生かした、誠実なビジネスを立ち上げた。

今度は、人々を騙すのではなく、本当に役立つ商品やサービスを提供した。その結果、ビジネスは徐々に軌道に乗り、かつて失った以上の富を築くことができた。

現在、男は喜んで知識税を支払っている。

知識こそが、真の財産であり、自分自身を成長させてくれるものだと理解したからだ。

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