一緒に星を見る

オリジナル小説
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涙が止まらなかった。

「手術をしなければ、あなたの余命は2年ほどです」

医師から告げられた言葉で、私の頭の中は真っ白になった。

体調不良が続き、検査入院を勧められて、ようやく出た結論がこれだった。

手術は成功率が高い。しかし、私には絶望的な方法だった。その手術に適合する臓器は、家族など、血のつながったものでなければならなかったのだ。

私は一人っ子だった。父は私が物心つく前に病気で他界している。母は、10年前に事故で突然この世を去ってしまった。私にはもう、頼れる肉親は誰もいなかった。

絶望の淵に立たされた私を支えてくれたのは、恋人である彼の存在だった。

大学時代に出会った彼は、私より5歳年上。若い頃に大病を患い、その治療で進学が遅れたのだという。彼の体には、今も生々しい手術痕が残っていた。

「私、もう死ぬみたい」

星空が美しい夜。恋人との旅行先だった。私はこの美しい星空を、もうじき見ることができなくなってしまうかと思うと泣いてしまった。

震える声で告げると、彼は優しく、しかし力強く言った。

「あきらめないで。僕も支えるから。また二人で同じ星を見よう」

彼に勧められ、私は臓器提供ドナーの登録をした。しかし、適合するドナーは、そう簡単には見つからなかった。

そんなある日、彼は突然、こう言った。

「君とはしばらく会えない」

「いやよ。せめて、私が死ぬまでは、一緒にいて」

すがる私に、彼は悲しそうな表情を浮かべて言った。

「それはできない……。でも、君を見捨てることはしないよ。絶対に」

そう言って、彼は私の前から消えてしまった。

それからの日々は、まさに生き地獄だった。病状は日に日に悪化し、生きる希望も失いかけていた。そんな時、奇跡が起きた。私に適合するドナーが見つかったのだ。

手術は、無事に成功した。

しかし、退院してからも、彼は戻ってこなかった。何度連絡をしても、彼からの返事はなかった。

それから1年が過ぎた頃、私はある真実を知る。きっかけは、母の遺品を整理していた時に見つけた、一枚の古い写真だった。

その写真には、若い母と、一人の男の子が写っていた。そして、その男の子は、間違いなく彼だった。

「なんで彼が母と一緒に……?」

彼女がこの写真について調べると、当時のことを知る人物が見つかり、全てを教えてくれた。

母は若い頃、一人の少年に、臓器提供をしていたのだ。そして、その男の子こそが、彼だったのだ。

彼は、かつて入院していた病院で、母と私と出会っていたのだ。

全てが繋がった。彼が姿を消した理由も、私が助かった理由も。 私を救ったのは、母の臓器だったのだ。正確に言えば、彼に移植された、母の臓器だ。

私はいてもたってもいられず、彼の行方を探し始めた。彼が通っていた病院、彼が住んでいたアパート、彼と出会った大学…。しかし、彼の痕跡はどこにもなかった。

諦めかけたその時、ふと、闘病中の彼との会話が蘇った。

「また二人で同じ星を見よう」

私は、彼と一緒に旅行した同じ日に、同じ場所に向かった。

そして、ついに、彼を見つけた。

彼は、私を見て、驚きの表情を浮かべた。

「どうして、ここに…」

「やっと見つけた…」 私は、彼の胸に飛び込んだ。

彼の胸からは、懐かしい鼓動が聞こえてきた。

「ごめん…本当のことを言えなくて…。君を大学で見つけた時に、過去のことを秘密にして近づいたんだ。卑怯だろ。それを君に、知られたくなかったんだ…。」

「それでも、私はあなたに感謝してる。あなたのおかげで、私は今、ここにいるんだから」

私は、彼に、全てを話した。母親と彼が一緒に写った古い写真を見つけたこと。彼の過去を知ったこと。そして、彼が私を救うためにしてくれたことへの感謝の気持ちを。

「君は…僕を許してくれるのかい?」

「当たり前じゃない。あなたがいなかったら、私はここにいないんだから」

彼は、私の手を強く握りしめた。彼の目からは、涙が溢れていた。

今夜、私たちは一緒に星を見る。

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