パーティーが終わって、中年が始まる【書評】

読書
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phaさんの著書『パーティーが終わって、中年が始まる』を読んだ感想です。

受け入れ難い変化を受け入れていく

著者は、若い時は自由と変化を求めて生きてきましたが、40代になって、若い時のエネルギーが失われて、安定に居心地を良さを感じたり、昔なら理解できなかった普通の人の生活の意味がわかってきます。

本書は、老いによって自身と周囲の変化に戸惑いながらも緩やかに受け入れていく等身大の姿が淡々と書かれたエッセイです。

ずっと、何も背負わない自由な状態でいたかった。お金よりも家族よりも社会的評価よりも、とにかくひとりで気ままに毎日ふらふらしていることが、自分にとって大切だった。だから定職にもつかず、家族も持たず、シェアハウスにインターネットで知り合った仲間を集めて、あまり働かずに毎日ゲームとかをして暮らしていた。世間からダメ人間と見られても、全く気にしていなかった。いつまでこんな感じでやっていけるのだろう、ということは、あまり真剣に考えてはいなかった。わからないけど、まあなんとかなるんじゃないか、と思っていた。四十代半ばになった今、つかまってしまったな、という感覚がある。何に?世間に、だろうか。それとも、老いに、だろうか。何をするにも少しずつ足取りが重くなっていて、昔のように自由に動けなくなってきているのを感じる。

pha. パーティーが終わって、中年が始まる (幻冬舎単行本) (pp.2-3). Kindle 版.

この感覚について、丁寧に繰り返し書かれています。

最近は本を読んでも音楽を聴いても旅行に行ってもそんなに楽しくなくなってしまった。加齢に伴って脳内物質の出る量が減っているのだろうか。今まではずっと、とにかく楽しいことをガンガンやって面白おかしく生きていけばいい、と思ってやってきたけれど、そんな生き方に限界を感じつつある。楽しさをあまり感じなくなってしまったら、何を頼りに生きていけばいいのだろう。正直に言って、パーティーが終わったあとの残りの人生の長さにひるんでいる。下り坂を降りていくだけの人生がこれから何十年も続いていくのだろうか。

pha. パーティーが終わって、中年が始まる (幻冬舎単行本) (pp.4-5). Kindle 版.

過去の自分を否定する衰えを書くことは勇気がいる

本書読んで最初に感じたのは、「良くぞこの本を書いてくれたなぁ」でした。

本を書くというのは非常に大変なことですが、しかもその内容が、自分のアイデンティティであった「変化を好む人生」の否定ですから非常に苦しい。

さらに、著者が現在進行形で衰えを感じている中で書いているのだからとんでもない労力だったでしょう。

『遠い太鼓』に登場するヨーロッパ人

本書を読んでいる中で私がふっと思い出したのは、村上春樹のエッセイ『遠い太鼓』で登場する北方ヨーロッパ人でした。

随分前に読んだので詳細は忘れてしまったのですが、村上春樹によれば、北方ヨーロッパ人は、若い時はとにかくケチで、どれだけ金を使わずに遠くのまだ見ぬ景色を見るかに凌ぎを削り、まるで苦行者のようだと。そして、就職してお金を稼いで歳を取ると、今度はバカンスでのんびり旅行をするようになる。

この二つの行動は全く異なるように思えますが、実は彼らの行動には「経済効率」が根底にあって、若い時はお金がないから、できるだけケチにバックパッカーのように旅するが、お金を稼ぎ出すとリラックスする時間のほうがお金より大事になるから経済効率でバカンスを楽しむようになる。こんな感じの内容でした。

人間は、歳を取ると、同じ価値基準であっても、行動が全く逆になってしまうことがあるのだとこのエッセイを読んで驚かされました。

本書では、著者は何ども老いによって自分が変わってしまったと嘆いていますが、私は著者が重きを置いている価値観・スタンスはそこまで変わっていないように思ったのです。今はまだその変化に慣れていなくて、少し戸惑っているのではないか。

人間の価値観が変わらなくとも、行動が変わることがある。本人が考える「衰退」が実は変化の兆しなのではないか?と思わせてくれるワクワクがありました。

もちろん本人しかわからないので、違うのかもしれませんが、そんなことを感じました。

旅の区切り

私の話を書くと、私もバックパッカーで一人旅が好きな人間でした。でも、20代の中頃でイタリアにバックパッカーで一人旅行している最中に突然「自分のバックパッカーの旅はこれで終わりだな」と、とても明確な終わりを感じました。

何か決定打があった訳ではないのですが、自分の貧乏一人旅の幕が閉じたのを感じたのです。

あれは何だったんだろうか?と時々思います。

自分の価値観が違うものに変化したというよりは、自分の中の価値観がマントルの溶岩のようにぐるぐるかき混ぜられていたのが、バシッと固まった瞬間だったような気がします。

自分にとっての一人旅は、自分の中の価値観を固めるために必要な要素で、その価値観が決まった、そんな瞬間だったのかもしれません。

本書を読んで、その時の気持ちもまた思い出すことができました。

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